ウヰスキー

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その弥生は仕事を休んでいた。三回忌法要で恋人遠山和也の家族から呼ばれて、和也の実家の愛知へ出かけていた。 法事も終わり、弥生は和也の部屋で和也を感じていた。 「弥生さん。今まで本当にあの子を大切に思ってくれてありがとうね」 和也の母親は、そう言って弥生の手を握った。 「やめてください、そんな。私は、今でも和也さんの恋人だと思っています」 弥生の言葉に、和也の母親は首を振った。 「もう充分よ。結婚していた訳でもないのに、ここまで弥生さんを引き止めてしまってごめんなさいね。あなたはあなたの人生を生きなきゃいけないの。これを区切りに、和也のことはもう忘れていいのよ」 弥生を思ってのことだと言うことは十分わかっていた。でも、そんなに簡単に気持ちの切り替えなど弥生にはできなかった。 「私は和也さんだけなんです。和也さんの思い出を、これからもお母さんとお父さんと共有させてください!」 弥生は必死にすがりついた。和也の母親は再び首を振った。      「お願いよ、弥生さん。和也の為にも幸せになって。自分を犠牲にしないで。そんな事はきっと優しい和也のことだもの、望んでなんかいないの。お願い、分かって」 和也の母親の言葉に、弥生は今まで自分が独りよがりだったと思った。 和也を失って、一番苦しい思いをしていたのは和也の肉親なのだ。 きっと弥生が今のままでは和也の両親だって、弥生に負い目を感じながら生きていくことになる。 それを感じ取った弥生は、涙ながらも和也との別れを承諾するしかなかった。
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