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「その後、彼女とはどうなりました?」
幸せそうな比呂志の顔を見ながら、わざとらしくマスターは聞いた。カウンターの上にはもちろんボウモアのボトルが鎮座している。
「無事、お付き合いを始めました。しかもなぜか事務所のみんなが知っていて、恥ずかしいです」
あの時夢中だったので何も気づかず、後から同僚達に冷やかされたと、恥ずかしそうに比呂志は言った。
「なるほど。で、どんな風に口説いたんです?跪きました?」
面白がってマスターはからかう。
「もお!ふつーにストレートに告白しました!」
むくれて比呂志は言うものの、その表情は幸せに満ちていた。
「マスターこそどうなの?マスターに女の影を見たことないけど、マスターこそ愛を知らないんじゃないの?」
やり返すように楽しそうに比呂志は言った。マスターは腕組みをして、薄い美しい唇を指でなぞる。
「さあ、どうでしょう」
余裕の美しい笑みでマスターは言う。
「私のは秘密です」
妖しい微笑みでマスターはウインクした。
「はいはい、どうせはぐらかされるって分かってましたよ。さて、俺は帰ります。明日は朝から裁判なので」
比呂志が帰っていくとマスターは、旬と楽しそうに話をしていた、比呂志がショートボブのカッコいい綺麗系と形容していたしほなに声をかけた。
「今夜お時間があったら、これもいかがですか?」
しほなの前にボウモアのボトルが置かれた。
「アイラの女王がナイトと結ばれるまでの物語と一緒に」
しほなは少女のように無邪気に微笑んだ。
「おとぎ話は大好きよ」
マスターは魅力的な笑みで、ウイスキーグラスに琥珀色のボウモアを注ぐ。
季節は、女王とナイトが出会った春から、爽やかな青が似合う夏に向かい始めていた。
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