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「……くん。顕人くん?」
マスターの声が近くなり顕人はびっくりした。
「すみません。ボーっとしちゃって」
照れ笑いを顕人はした。
「まだ飲み物決まってなかったから。何になさいます?」
妖しい瞳でマスターは言った。
「ああ、すみません。惚けてしまって。何か夏っぽいさわやかなカクテルお願いします」
しどろもどろ気味に顕人は言った。
「では、モヒートはいかがですか?」
にっこり微笑んでマスターは尋ねる。
「飲んだことないかも」
顕人が答えると、マスターは冷蔵庫からミントを出した。
「ミント使いますが大丈夫ですか?」
物腰柔らかにマスターが言うと顕人は頷いた。
「爽やかなの大好きです」
マスターの美しい指が、魔法のようにカクテルを作る。見た目も涼しげなモヒートを顕人の前に置いた。一口飲むと、ミントの青々しい爽やかさと苦味が口に広がった。
「いかがですか?」
マスターの満足げな瞳が顕人を捉える。
「とても美味しいです」
顕人はそう言うとごくごく飲んだ。そして顕人は眼鏡を外すと、目頭を押さえた。
「最近、レポートとか徹夜続きで、アルコールを入れたら一気に来ました」
はははと顕人は笑ったが、それは嘘だなとマスターは思った。
「何か、悩み事でも?先ほどもボーっとしてましたね」
唇に指を添え、腕組みしながらマスターは尋ねた。
顕人は照れたような苦笑いをする。
「実は進路のことで父親ともめてる。父は外科医になれと言っているんです。俺が長男だから、跡を継がせたいのは分かってる。でも、俺は小児科医を目指そうと思ってるんです」
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