ウヰスキー

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『生きていてくれて、ありがとう』 比呂志の言葉に弥生はびっくりして息を飲んだ。 それは、自殺未遂から初めて慰霊碑の前に立った時に聞こえた、彼から言われた幻聴と同じ言葉だったからだ。 比呂志は耳元から、弥生のすすり泣きが聞こえて焦った。 『ごめん!俺、何か変なこと言った?』 状況が分からず、比呂志は焦りまくった。 『いえ、彼を思い出しただけです』 もうこれ以上、彼の話はやめた方がいいな、彼女のことは諦めようと思い、比呂志は電話を切ろうとした時だった。 『先生って、仕事中は僕、って言うのに、プライベートだと俺って言うんですね』 弥生が楽しそうに言った。 『あー、使い分けね。ほら、仕事は敬語だし、私ってキャラでもないでしょ』 弥生はふふふと笑った。 『俺さ、33なんだけど、童顔だからいつも若手と間違えられるわけ。それが悔しくて仕事の原動力にもなってるんだけどさ』 話の矛先が変わってしまったが、比呂志は自分の話ができて嬉しかった。もっと自分の事を弥生に知って欲しかった。 『私も今聞いてびっくり。まだ25前後だと思いました。若いのに、うちの会社に代表の弁護士さんとお見えになるから、すごく優秀なんだって、秘書課でも実は噂になってたんですよ』 『残念ながら、年食ってました』 比呂志がおちゃらけて言うと弥生は笑った。 『また、電話します。また、俺と他愛もないおしゃべりしましょう』 比呂志の言葉に弥生も、はい、と言って二人は電話を終えた。 桜はひらひら舞い降りていた。春の盛りを謳歌するように。比呂志の心も踊り舞っていた。
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