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バーを出てすぐに私はタクシーを拾った。
トランクを積んでもらい、タクシーのシートに身を預ける。
「羽田空港国際線ターミナルまで」
羽田から、ドバイ経由のナイロビ行きの飛行機でアフリカに戻るのだ。
タクシーの窓から中秋の名月を眺めながら、私は彼女への想いを断ち切る。
本気で愛したのだから、別れた事に後悔はないと言ったら嘘になる。
でも、今度はお互い納得して決めた事。もう、振り返りはしない。
羽田に着くと飛行機達が、満ちた月明かりの下で幻想的な風景を私に見せてくれた。
現在22時。
空港に着いてチェックインをすると、2年前に日本から飛び出した時よりも切なさが強くなる。
椅子に腰掛けフッと息をつく。膝の上に置いた指が踊る。バーで聞いたジャズのナンバーの『枯葉』がずっと脳内に流れている。
そんな事で寂しさを募らせるなど、私も年を取ったものだと苦笑いをして、スーツの内ポケットからスマホを出した。
フライト前に、最後に私は彼女にメールを送ることにした。
独り善がりだとしても、それが私のケジメのような気がした。
君に見せたい風景があったんだ。
アフリカの大地に君と一緒に肩を並べ、同じ時の流れの中で、同じ風景が見たかった。
それは叶わぬ夢に終わったけど、僕達は結ばれることはなかったけれど、でも君と会った数日の間に見た、日本の月の美しさに僕は思ったんだ。
こんな都会の光の中でも、月がとてもよく見えて驚いたよ。
アフリカの月も、日本の月も、同じひとつの月なんだね。
だらかどうかこの月を、君もどこかで、最後に僕を想いながら見てくれていたら幸せです。
離れていても、同じ風景が見れるんだって思えるだけで嬉しいです。
君の元から旅立てる勇気が持てます。
アフリカから、君のこれからの活躍と幸せを祈っています。
さようなら。
ありがとう。
完
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