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俺はまた蛍ちゃんを泣かせてしまった。
ボロボロと泣く蛍ちゃんの顔が鮮明に目に焼き付いてしまって離れない。
きっともう……拭うことなんて不可能だ。
これ以上、みんなに迷惑は掛けられない。
俺は椅子から立ち上がり、一也さんに向かって頭を下げた。
「今日でホスト辞めさして下さい。」
今の俺じゃ蛍ちゃんを抱きしめることなんて出来ない。
彼女とちゃんと向き合いたかった。
どれほどの沈黙が流れただろう……
俺は一也さんからの返事を、頭を下げた状態でずっと待った。
「潤…経営側にまわってみるか?俺が上に掛け合ってやるよ。裏方なら彼女に対する罪悪感もそんなには持たなくて済むだろ?」
やっと掛けてくれた一也さんの言葉は、俺を非難するわけでもなく、最善の方法を考えてくれた優しい言葉だった。
俺も将来的には経営側にまわりたいとは思っていた。
思っていたけれど───────
「それはダメです。こんな中途半端な俺が経営側になんかなったら、他の人達に示しが付かないです。」
最後にこんな裏切り方をしてしまった一也さんに甘えるわけにはいかない。
「そっか…いずれおまえは幹部になるやつだと思ってたんだけどな~……」
一也さんは残念そうにそう言い、俺の肩を叩いた。
「ま、今日の閉店までは頼むわ。落ち着いたらロッカールームから出て来い。」
一也さんがドアを閉める音がロッカールームに響いた。
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