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第1話 苦手な職場
あと十五分で中勤の終業時間だ。その頃を目安に一列に並んで部品の検査をしていた同僚は、区切りの良いところで作業を終え、検査ステーションの端末を終了画面に戻す。
由梨のステーションの未検査側トレイにはまだ半数以上の部品が残っている。ペースアップしなければ駄目だ。
焦りを感じたとき、遮光シートの衝立の向こう側で嬌声が上がる。由梨と同じ検査員の女の子たちがわいわい騒いでいる。彼らが来たのに違いない。
苛々しながらも由梨は検査に集中する。気を逸らしたら不良品を見逃してしまう。
「終わりそう?」
隣で作業していた年上の先輩検査員が声をかけてくれる。
「大丈夫です」
不安だったがそう答えるしかない。
目を見開いて手に取ったドラムを回しながら感光体の表面に視線を注いでいると、後ろから柔らかな声が降ってきた。
「おはよう」
腰から上を隠すように検査ステーションをぐるりと取り囲む遮光カーテンの裾が、持ち上げられた気配。
チェックシートを持って検査ステーションを離れるところだった先輩が、心持ち高くなった声で挨拶を返しているのが耳に入ってくる。ひたすら作業に集中するふりで由梨は振り返ったりしない。そんな彼女の後ろでくだらない会話が続いている。
仕事中だというのに非常識だ。検査の作業は何をおいても集中力が必要だ。だから遮光カーテンの表には『話しかけないでください』と注意書きのシートが貼られているのに。若い従業員にはそんなこと関係ないのだ。
話し声が遠ざかってくれて、由梨はほっとしながら検査を急ぐ。
未検査品トレイが空になり、隣の検査積みトレイの中の部品の数とモニターの数を照らし合わせる。緑色の排出ボタンを押すと、モニターのデータがトレイに差し込まれたデータカードに書き込まれるのと同時に、ステーション内部のレールの上をトラバーサーが滑ってきて、コンベアを回して検査済みトレイに乗った製品を排出口へと運んでいく。
それを見送った後、由梨はようやくモニターの画面を終了させる。ほっとしてチェックシートを手に振り返ると、真後ろで次の夜勤の検査員が待ち構えていた。
「お待たせしました」
「んーん。お疲れさま」
同い年で、由梨がこの職場に来たときから親し気に接してくれる彼女は、入れ違いに作業台の上にまっさらなチェックシートを置く。夜勤は勤務時間が長い。チェックシートの最後の欄まで数をこなさなければならないことが暗黙のルールになっている。
「頑張ってね」
小さな声で言うと、他の夜勤メンバーも由梨に手を振ってくれた。
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