第3話 ガムとコロブチカ

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 いったんトラバーサーを空にしたAGVは、今度は隣の空トレイ排出口で前工程へと戻す空トレイを再びトラバーサーの上へと載せる。そして再び電子音の『コロブチカ』を鳴らし磁気テープの上を元来た方向へ走り出す。  それをやりすごして白井の相棒の小田がこっちに来た。 「帰ろうか」 「はい」 「お……」  お疲れさまです、とふたりに挨拶しようとした由梨だったが、小田がいきなり手を伸ばしてきたからびっくりして固まってしまった。 「あげる」  ぐいっと手首をひっぱられて手のひらに何か押しつけられた。 「由梨ちゃん、寝不足でしょ」  個包装のガムが三粒右の手のひらに乗っていた。 「これ強烈だからさ。ここぞというとき口に入れて」 「……ありがとう」 「バイバイ」 「おつ……」  今度こそ挨拶しようとしたけど、 「お疲れー」 「バイバイ」  由梨の小さな声は高い声に遮られてしまった。  案の定というか自業自得というか、午前中の休憩の前にものすごい眠気に襲われた。小田にもらったガムを噛んでみることにする。  なるほど。確かに強烈で眠気が一気に吹っ飛んだ。  でもそれも短時間で再び目蓋が重くなる。そこでようやく休憩の時間が回ってきた。  前工程も後工程も機械はフル稼働で回っているから、間の検査も止まってはいられない。休憩は二人ずつ交代で取るようになっている。  由梨は年上の睦子と組になって休憩に行くが、煙草を吸う睦子は喫煙室に行ってしまう。だから由梨はひとりで自販機の前の丸テーブルでうたたねして休憩時間をすごす。  だが朝勤だとのんびりできない。ちょうどこの時間に来ている掃除のおばさんに話しかけられるからだ。 「仕事は慣れた?」  今日もモップを動かしながら質問された。 「はい。なんとか」 「みんないい子たちだもんね」 「そうですね」  相槌を打ちながら由梨にはこのおばさんの意図が段々とわかってきていた。どうやらこの人の意図は若い子たちの悪口を言うことで、由梨の本音を探っているのだ。  誘導されたらいけない。由梨は気をつけながら受け答えをする。こういった世代間の争いはどこに行っても同じなのだ。巻き込まれたらいけない。あの子が言ってたよ、などとあることないこと言いふらされてしまう。  余計な神経を使ってどっと疲れ、仕事に戻るなり眠くなってしまった。二つ目のガムを口に入れる。
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