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在原ヨセフが15歳で親元を離れ、この修道院に身を置いてから10年が経った。あっという間だったかと訊かれれば、そんなことは無い。10代というのはなにかと多感な時期であったから、今日に至るまでそれなりに多くのものを見、また、感じた。外へ出かければ街角に佇む花売りの少女に淡い気持ちを抱いたり、修道院の狭い一室で、湧き上がるなんとも言えない衝動から、己の下半身を慰めたことさえあった。しかし、それも今は昔のことである。『私の務めは御神の御許で信仰に励むこと』とはっきり心得てからは、そのようなこともなくなった。 世間は欲望に溢れている。富、名誉、酒、女、その他諸々。これら悪しきものに惑わされ、身を滅ぼす輩のなんと多いことか。昔は彼らに憤った。しかし、今はそれとはまた違う感情だ。憐れみ―そう呼ぶのが相応しいかもしれない。彼らは世の中に溢れる欲望に負けた、愚かな被害者だ。 なんと、憐れなんだろう! 近頃は特段そう思うようになった。
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