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この距離は埋めさせない
「あの約束、忘れてねえよな?」
23歳、3月。家庭教師をしていた高3の男の子、凌久が無事に第一志望に合格して、これで契約満了、もうお別れ、という日。帰り際、勉強机の脇の椅子から立ち上がった私に、彼が声をかけた。
「あの、約束…?」
訊き返すと、彼は呆れたように溜め息を吐いた。
「言ってたろ?第一志望に合格したら、何でも好きなモンくれるって」
「あっ、そうだ!忘れてた!」
直前までC判定で不安そうだったから。元気付ける為に、そんなこと言ったっけ。
「良いよ、約束だもんね。何か欲しいものある?」
高校生だもんな。テレビゲーム?それとも財布とか?
あんまり高いと嫌だな、私、安月給だし。
そんなことを考えていたら、彼はニヤリと微笑った。
「お前、」
「…はっ?」
「だから、欲しいモン。お前」
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