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シーラは自分のドレスの腰からリボンを解き、オレの方に投げる。リボンは大きな水色の布へと変じ、体をすっぽり覆い隠した。
「おわっ」
布が溶けるようにきらきらの粒子に変わり、見る間に服を構成していく。ご丁寧に鞄と社員証もだ。いつもよりセンスも仕立てもいいスーツに身を包んだオレを見て、シーラは言った。
「はい、二つ目のお願い完了です。」
「あ、ああ。ありがとう」
ガラスの靴のダイヤがまた一つ消える。段々と状況に馴染みつつあるオレは、シーラを肩に乗せて会社に入った。変質者を探している警備員に挨拶をしつつ、だ。
エレベーターに乗り込むと、ブロンドの女性が駆け込んできた。こちらを見て、あ、と言う。
「今朝も早いのね」
「君もだろ、お疲れ様」
お先、とエレベーターを降りると、シーラが物申してきた。
「まだ何か言いたそうでしたよ」
「彼女は元妻なんだ。文句ならごまんとあるかもな」
「そういう感じじゃ…あ!置いてかないで」
まだ人のいないオフィスに着いて荷物を置くと、腕まくりして給湯室へ向かう。流しに置かれたままの誰かのカップを洗い、来客用のお盆を洗う。ついでに花の水を変えて、ぱんぱんになったゴミ箱の袋を交換した。
その様子を黙って見つめていたシーラが呟いた。
「なるほど、これは貯まるね」
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