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私は幼い頃に、深い深い巨大な夜の森に迷ったことがある。
そこには骨になった人や、体から血を流した人達が死体となって歩いていた。
私はずっとそこで1人泣いていたの。
「ぐすっ……うぇぇ……」
そんな時、彼が現れた。
大きな斧を担いだ黒の長髪の男の人。
絵本に出てくるピーターパンみたいな格好した大人の人だった。
「おいおい、ガキがこんなところに来るには早いんじゃねえの?ここは、三途の森……、爺さん婆さんになってから来るようなしみったれた所だっつうのによ?」
「ぐすっ……ここどこぉ?」
その人はこの森で初めて出会った普通の人だった。
「あんまり泣きわめくな、屍が寄ってくるぜ……」
その人は担いだ斧を振り回し、歩く屍の1人を切りつける。
「俺の名はバルト・イーヴィル……。この森の木こりみてえなもんだ。屍の仲間入りをしたくなけりゃ、俺についてきな……」
その森は普通の森とは違うのはまだ幼い頃の私にも理解は出来た。
「おうちに……かえりたいよぉ」
ポロポロと涙を流す私に、バルトはぶっきらぼうに言い放つ。
「メソメソ泣いてる時間はねえと思うぜお嬢ちゃん、なんせここは死と生の境界線である三途の川手前の森だ。急いで帰らねえと体が死ぬぜ?」
「し……」
その当時、私はハムスターを飼っていた。
死というのを身近に感じたきっかけがそのハムスターだった。
「しにたく……ないよぉ……」
「そう思うんなら、さっさと立ちな。体が死んで屍になるか、三途の川渡って死ぬか、森を越えて生き返るか……。お前は死にたくないってんなら、森を越えるしかねえ」
この森にはルールが有る。
そのルールをバルトは移動しながら教えてくれた。
森で死ぬことはない。
森に居るときに現実の体が先に死ぬと、屍となって永遠に出られずにさ迷う事となる。
屍に噛みつかれると屍となってしまうようで、その屍を呼び寄せるのが音なのだそうだ。
泣き声を森にさっきまで響かせていた私は当然滑降の餌食だったのだが、不幸中の幸いか、たまたま近くに居たというバルトが来てくれた。
森を挟むように現世と川が存在しているらしく、川を渡ってしまうと、どうあがいても生き返る事は出来ないのだそうだ。
「おっと、森の出口が見えてきたぜ……」
バルトはそう言うと私を降ろした。
「さあ、生きな……。こっちにはしばらく戻るんじゃねえぞ」
そう言う彼はニッと歯を見せて笑った。
私は走った。
走って走って、そしてーー
白い霧の中へと飛び込んだ。
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