第1話 今のふたり

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第1話 今のふたり

キーンコーンカーンコーン 授業の終わりを告げる鐘の音が校内に響き渡り、それまで静かだった廊下に賑わいが徐々に戻り始める。 その賑わいに参加するように、茜は次の授業のある教室へと移動する為、友人である百郷(ヒャクゴウ)と一緒に廊下に出た。 「うわ、廊下は熱気がやばいなぁ。昨日よりもあつないか?ヒャク」 季節は七月。最近の猛暑の影響か、学校の各教室にはエアコンが設置されており、教室内は快適だが廊下は地獄のように暑かった。 廊下の扉を開けた瞬間、太陽に温められた空気が容赦なく茜の顔に襲い掛かかる。 快適だった気温からいきなり夏の暑さにあてられた茜は眉間にしわをよせ、気だるそうにうなだれたまま、とぼとぼと廊下に出た。 「それ最近のはやりなの?何回聞いたか分かんないくらい聞いてるけど」 茜とは対極的に、暑さには表情を一切変えることなく、肩に乗った自分の髪を鬱陶しそうに払いのけながら、百郷は後ろをついて歩いた。 百郷は腰まである長い黒髪をうなじのあたりで一まとめにしており、プラスチックの黒縁フレームで、丸いメガネをかけていた。 人付き合い、というより人と接する事が億劫だと感じる百郷は、その性分からお店に髪を切りに行く事が出来ず、髪を洗ったり乾かしたりするのが面倒だとぼやきながらも髪を伸ばしていた。 「そういえば次の授業、宿題が出てたけど茜はちゃんとやってきたの?」 パッと見ただけで姿勢の良さが分かるくらい、まっすぐと前を見ながら歩きつつ、茜に聞いた。 百郷は平均女性より少し高めの身長をしており、目鼻立ちも整っている事からいろんな意味で目立っていたが、滅多な事では表情を変えない事から、冷めているとか人に興味がないとか、お高くまとまっているだとか、さんざんな言われようを陰でされ、結果孤立していた。 本人も一人が苦ではなかったし、むしろ気を遣う集団にいたいとも思えない一匹狼気質ではあったが、ナチュラルお節介な茜が絡んでくるようになり、いつしか二人でいることが当たり前になってしまっていた。 「なっ、宿題!?聞いてないぞうちは!」 本当に聞いてなさそうなリアクションをする茜。 しかしは百郷は、宿題を出された時に茜が「えーだるっ!まー宿題なんて、その日の朝すればええか!」と言ってあっけらかんと笑っていたことを覚えていた。 これもいつもの事。 「あんたいつもそういうけど、宿題やる気がないだけでしょ」 少し呆れた顔をしながらも、こんないつものやり取りも全く苦じゃない。 むしろ楽しいとすら感じていた。 宿題をしていなかったことに対する弁明をしつつ、廊下を曲がった瞬間茜は「あっ」と声を漏らして前を見た。 それにつられて百郷も茜の視線を追うように、曲がった先の廊下を見る。 前方からは茜と髪の色や髪飾りの色が違うだけで、顔や身長まで瓜二つな女性が歩いてきていた。 茜の発した声に釣られるように、前方から歩いてくる茜の瓜二つなそっくりさんも顔を上げ、そして同じように声を発した。 「・・・あっ」
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