4人が本棚に入れています
本棚に追加
第0話 すれ違う、君と
「だから何べんも言うたやろ?言葉にせんと伝わらんて」
茜はやれやれと言いたげな表情をしながら、我が家への帰路を歩く。
「い、言わなくても分かって欲しいの!お姉ちゃんにはそういう乙女心がないんだから」
少しむっとした表情を見せるが、どこか嬉しそうにも見える顔で茜の隣を歩く葵。
「こんな乙女をつかまえてよう言うたな」
「まぁ、お姉ちゃんは乙女じゃなくても可愛いよ」
「なっ…ん?ほめてるのかけなしてるのか」
「可愛いって言ったんだからほめてるでしょ」
「それもそうやな!」
ケラケラケラと楽しそうに笑う茜。
少し抜けてはいるがいつも明るく元気で、こんな些細な会話でも元気がもらえる茜と話すのが、葵は無性に嬉しかった。
こんな関係に戻れると思っていなかった葵は、今この瞬間、肩を並べて帰路につくことさえも嬉しくてたまらないが、それを悟られたくない一心で平常心を装っている。
茜はというと、嬉しいとか、楽しいという感情を隠す気もないようで、葵と一緒に帰れる事が嬉しいというのが第三者にも分かるくらい、満面の笑みで葵と話をしていた。
どちらも、今までの空白を埋めるかのように、自宅までの短い時間という事も忘れ、わき目もふらずお互いに目を向け合っていた。
自宅につき、自室で通学着から部屋着に着替えていた時、茜はふと何かが頭をよぎったような気がした。
胸騒ぎともとれるような、違和感レベルの何か。
ただこの時、いつもの調子で、何か学校に忘れ物をしてしまったかな?とか、宿題何かあったっけ?という考えにいってしまい、これまたいつもの調子でまぁいいか!で片付けてしまった。
この時、この違和感に気付いていれば。
はたまた、恋愛というものを経験していれば。
この物語は、もう少し簡単にハッピーエンドになったかもしれない。
最初のコメントを投稿しよう!