まるで物語のような恋だった

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「き、桐生くん……?」  そこに立っていたのは、クラスメイトの羽鳥(はとり)さんだった。走って来たのか、大分、息が荒い。セミロングの艶やかな黒い髪も、すこしだけ振り乱れている。  羽鳥さんは、僕がそのノートを手にしているのを認めた瞬間、白い頬を林檎みたいに真っ赤に染めあげた。そうかと思ったら、目にもとまらぬ速さで、唖然としている僕に詰め寄って問題の(ぶつ)を取り上げてしまった。   「えっと、その」  優等生で、いつも冷静な羽鳥さんが、こんなにおろおろしている姿を見るのは初めてだった。  彼女は、ノートを大事そうに抱えながら、すっかり固まってしまった僕を上目がちでおずおずと見上げた。 「もしかして、だけど……中身、見た?」  どきりと、心臓が跳ね上がる。  懇願するようにじいいっと見つめられ、罪悪感が降り積もっていく。  多分だけど、たとえここで白を切ったとしても、賢い彼女にはすぐに見抜かれてしまうだろう。  僕は、小さく息をついて、首を縦に振った。 「うん」  羽鳥さんの白い頬が、カッと朱く燃え上がる。 「そのっ……え、と……内容の、ことだけど。気に、しないで」 「ねえ、羽鳥さん」 「な、なにっ」     
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