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土砂降りの雨。落雷の音が近く響いていた。
診療所の入り口の前を、一人のネコ科の男性が佇んでいた。頭頂から尾端まで、サバトラの被毛が雨水を吸い込み、全身を重くしていた。恋人が避妊手術を受ける直前、彼女の気持ちを考えたら、中に入る勇気が持てないでいた。
彼は、昨夜のチャミーとの口論を思い出した。避妊したくない、という彼女の想いを、もっと大事に考えてあげられなかったことを後悔した。彼自身も、成獣不妊法の下、既に去勢手術を受けていた。もう子供は作れない。だから彼女もそうなるべきだという思いが、自分の中にあったのだった。
何もしてあげられなくても、せめて、愛してる、と伝えたかった。
彼は時計を見た。もうすぐ、手術時間だった。ようやく重い腕で入り口を開けた。
中には、一人のニンゲン科の男がいた。白衣を着て、カルテらしい紙をじっと見ていた。すぐにドクターだと分かった。
「あの、すみません。今日ここで不妊治療を受けるフェリスさんと面会がしたくて……」
彼が言い終わるのを待たず、男が言った。「レオン・シルベストリ。あの子の彼氏?」
「はい、そうです。フェリスと合わせてください。まだ時間はありますよね?」
「確かに、そうだな」男の顔が、楽しそうに笑った。「じゃあ合わせてやる。来な」
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