ここは、擬人化した動物たち、獣人が暮らす幻想世界。

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 レオンは男に連れられ、奥の部屋へ進んだ。手術室だ。無感情な白い空間に、モニターの電子音と、人工呼吸器のポンプが伸縮を繰り返す音が、規則的に響いていた。  手術台には、チャミーが仰向けに寝かせられていた。  口からは直接肺に酸素を送り込むチューブが伸び、人工呼吸器に繋がっていた。定期的な心拍音と胸の膨らみが、彼女を完全な機械へと変えていた。器具台には、これから彼女の体を侵襲する為の、冷たい色をした金属類が並べられている。目を引く心電図のモニターは、まるで彼女の魂がそこに転送されたかのようで、彼女もそこから自分の抜け殻を見つめているようだった。  レオンは、チャミーの手を取った。「何で、こんなこと……」 「法律で決まってるからだろ」  ニンゲンの男の顔は、笑ったままだ。 「お偉いさんが決めたことを、お偉いさんを選んだ皆がやってるんだから、お前らもやるんだよ。幼獣でも解る、簡単な理屈だ」  全く他人の気持ちを考えるつもりの無い男を、レオンは睨みつけた。  男は続けた。「確かに、別の世界から見たらこの法律は異常かもしれないな。でも俺らはこの世界の存在だ。この世界のルールに従うんだよ。てめぇが受け入れられるか、それが強さだ」 「なら俺は弱いよ! 今、目の前で彼女が大切なものを失おうとしてるのに、何もできねぇんだからな!」レオンが叫び、手術室中にこだました。  振動のせいだろうか、これまで一定だった心電図の波形が乱れた。  暫くの沈黙の後、男は波形が通常に戻っているのを確認してから言った。 「あんた、去勢してるよな?」 「ああ……。14の時に取ったよ」レオンは恥じらいながら答えた。 「へ~、自分はもう男じゃないってのに、この女が女じゃなくなるのは嫌なんだ」 「嫌だよ! 愛してるから!」  レオンは自分が何を言ったのか解らなかった。何を考えたわけではない。ただ本当に、自分の気持ちが叫んでいた。心電図の波形が、また乱れた。  男は時計を見て、執刀開始時刻が過ぎてることに気づき、レオンを退出させた。  手術室の外、点灯した手術中の文字を、レオンは縦長の瞳孔で睨みつけた。怒りと贖罪の入り混じった感情が、全身のサバトラの被毛を逆立てていた。雷鳴は、診療所の真上で響いていた。
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