ここは、擬人化した動物たち、獣人が暮らす幻想世界。

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 手術中。  ニンゲン科の男が滑らすメス刃が、チャミーの下腹部正中の皮膚を切り開いた。  彼女の皮下脂肪が露わになり、男の指が皮下織を筋膜から剥離していく。露出した腹筋が中央の白線で釣り上げられ、鋏で切り開かれた。腹腔内部には、全くの病気を呈していない、健康な臓器があった。  男は指で腸と膀胱を退けて、腹腔の奥にある子宮を掴んだ。 「まさか……」男は言った。「妊娠している」  男が掴んだ子宮の中。母から栄養を貰う胎児が、誕生を今か今かと待ちわびるように、動いている様子が伝わった。 「彼氏は去勢済みのはずだが?」  男は疑問を持ちながらも、卵巣を取り出すために子宮を引っ張った。  心電図が激しく乱れた。患者の交感神経が刺激された為だと、男は分析した。  男は、引きずり出した卵巣を掴み上げた。そして、卵巣の間膜と動静脈を切断するため、電気メスを構えた。  メス刃の先から煙がたつ。母体の異変を察知したのか、子宮内の胎児が激しく動いた。 「心配ない。君は楽に死ねるよ」男は呟いた。  メスの刃先が、卵巣血管に近づいた。
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