見知らぬ幼馴染

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見知らぬ幼馴染

「アタシねー、明日から海外出張のお父さんのトコ行くのー。前に、八月に入ってからって言ったけど、予定が早まったんだって」  だから七月の間も遊べなくなっちゃうけど、ごめんねと、幼馴染の美香は笑った。  それを俺は、なら仕方ないなと聞き流した。  二軒隣の家の美香。同じ年の子供の中では一番家が近かったから、当然のように毎日遊んでいた。  それでもある程度育てば、それぞれ男友達・女友達ができて疎遠なるのだろうけれど、小さな頃から美香は男みたいな恰好ばかりで、中学に上がる際も、お前はセーラー服じゃなくて学ラン着ろよとからかったくらいだ。  まだ休み前なのに、もうずいぶんと日に焼けた顔がにかっと笑う。それが俺が最後に見た『男みたいな幼馴染』の姿だった。  休み明け。  すっかり自堕落に慣れた体に鞭を入れのそのそと家から出る。  九月になったといってもまだ暑い。でも今日から学校だ。  やる気もなく歩き出す。と、二軒目の位置でふいに声をかけられた。 「啓太、おはよー。あと、久し振りー」 「お。美香。帰って来てたのか、よ…」  呼び名に反応して振り向く。そこに、知らない女の子がいた。  肩までさらさらした髪を伸ばした、かなりかわいい女の子。いや、顔は見覚えがあるんだけど、印象が前と違う。以前は『毎日見てる顔』でしかなかっのたに、今日は…『かわいい』。それもかなり。 「帰れたの、昨夜遅くでさー。お土産あるけど、啓太のはみんな用と別口だから、学校帰ったら渡すね」  声は前のままだけど、喋り方も一緒なんだけれど、聞こえる印象が違う。 「どした? ぼーっとして。休みボケ?」  近い位置から覗き込まれ、返事もできずにあわあわしていると、美香は楽しそうに笑った。その笑顔にドキリとする。 「ぼんやりしてると遅刻するよ」  そう言って歩き出す美香の後ろ姿は、セーラー服がよく似合う、まるで別人のものだった。  たった四十日。今まで何年も顔を突き合わせていたのに、僅か一月ちょっとであんなに変わるなんて、女の子って凄い。  そう、女の子だ。  俺の見知った幼馴染じゃなく、あれは、俺の知らない女の子。この胸をドキドキさせる女の子。 「啓太ー。置いてくよーー」  その、まぶしいくらいの女の子が、以前と変わらぬ態度で俺に接してくれる。その幸せに浮かれながら、俺はセーラー服の後ろ姿を追いかけた。 見知らぬ幼馴染…完
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