口が裂けてももう言えない

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俺が初めて好きになった相手は 男だった 『好きです。付き合ってください』 そこそこ仲良くしてた女子に告白されて 好きな人がいたから断った 『あー…ゴメン。他に好きな人いて…』 『…そっか。あの、好きな人教えてくれない?そしたら、諦められると思うの…』 誠意には誠意を 返そうと思った 『…俺が好きなのは……』 『…!』 次の日には 学年中に広まってた 『お前男好きなんだって?気持ちわりー』 『俺お前と友達やめるわー』 みんな俺から離れていった 『…ないわ』 好きだった人も 蔑んだ目で見て 嘲笑って 虐めてきた 泣いて 愛想笑いして 叫んで 疲れて それが中学三年間の思い出 もう恋をしない なんて言うつもりはないけど… また馬鹿正直に伝えるのは 少し怖い 「おはよー勇気」 「…おはよー泰成」 その笑顔が嫌い 「シャンプー変えたんだけどあんま合わねえんだよなー」 その香りが嫌い 「その短さでシャンプー使ってんの…?」 「は?使うわシャンプーくらい」 その仕草が嫌い 「あ、今日一緒に帰ろーぜ。部活ないから野球付き合ってよ」 何より嫌いなのは 「…ん。いいよ…」 その全てが愛しくて また同じことを繰り返しそうになる 自分が嫌い 「好きな人できた?」 たまに聞いてくる 聞き慣れたその声で 世界で一番不愉快な質問 「…俺泰成のこと好きだよ」 「どーも。…そういうことじゃなくて」 いつも決まって 同じことを言っている 「お前いつもそれだよな」 「だって好きな人いないし」 嘘ばっかりだ 「ま、俺もいないんだけどさ」 「早く彼女作れば?」 「女子ってめんどくさいし…いっそ勇気が彼女になってよ」 「嫌だね。俺は普通に女子が好きだし」 嘘だらけの言葉に隠れた たった一つの本音に 君は気づいてくれない 「俺は泰成のことは好きだよ」 気づいてくれたら嬉しいかもしれない 「俺が聞いてんのはlikeじゃないから」 でも怖い もし 万が一に 泰成が俺のことを好きになってくれていたとして 俺はその後どうすればいい? 堂々としていられる関係じゃないことくらい 分かってる 「どうかした?」 「…なんでもない」 俺はこの気持ちを伝えるのは 少し怖い
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