月灯りの下で

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 それでも、そんな賑やかな場を苦手に感じる自分も何処かにいる。一年生の時は自分が素面(しらふ)だからついていけていないのだとばかり思っていたが、飲酒できる年齢になった今も、胸にわだかまる違和感は拭いきれていない。  だから場が盛り上がっていればいるほど、その直後には一人になりたい衝動に駆られてしまう。この気持ち、本来水の中で暮らしていけるはずの魚がわざわざ水面の空気を求めるのと似たようなものではないかと自分では解釈している。  足元では宿でお借りしたサンダルがぺたんぺたんと安っぽい音を立てていた。こんな山の中でも人家に続く道は舗装されていて、足裏を情け容赦なく押し返してくるアスファルトの固さが気に障る。一週間も山を歩き続けて柔らかい土に慣れてしまった身には、この固さが無機質過ぎて、どうにも受け入れがたい。  とは言え、根が都会っ子だから、明日になればこの人工の地面を当然のものとして認識するだろう。幼い頃から馴染んできた感覚は、そう簡単に変わるものではない。  そんなつまらない足音だけをお供に歩いていたはずが、いつの間にか別の誰かの足音まで重なっていることに気付いた。同じサンダルによる足音なのに、私のそれよりは重量感がある。振り返ってみれば、こちらへ向かって小走りに駆け寄ってくる長身の男の子がいた。今回の合宿では同じ班だった一年生だ。 「どうしたの?」  振り返った私に、彼は軽く眉根を寄せた。     
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