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「それはこっちのセリフですよ。こんな時間にどこ行くんですか?」
「そこの角っこにあった自販機までお茶買いに行くだけ。そっちこそどうしたのよ?」
「いえ、先輩がふらふら出て行くのが見えたんで」
……え? それだけのことで、追いかけてきてくれたの?
目を丸くしている私の隣に立った彼は「だって夜中に一人で出歩いたら危ないですよ」と当然のことのように言う。
私は癖の強い髪の毛をかき上げ、破顔した。
「やだなぁ。そんな女子扱いなんて慣れてないから緊張するわ」
「緊張って大袈裟な」
「だって、中学からずっと女子校だったから、そんなこと言ってくれる人なんていなかったんだもん」
「高校卒業して三年も経つのに、まだ慣れないんですか?」
「こーいうのは身に沁みついちゃってるから、今更直らないの」
何の自慢にもならないことなのに胸を張って語る私。それに対し薄い笑みを浮かべた彼は、私と肩を並べて歩き始めた。
……はてさて、これは一体どう理解すればいいのか……。
何気なさを気取って歩いているものの、実はこの時の私の頭の中は軽いパニックを起こしていた。それを表へ出すのはみっともないから、咄嗟に笑い飛ばしてしまっただけ。
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