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この漆黒の世界の中でまばゆい光を放つ直方体の箱は、かなり異様な存在だった。しかも、側面に描かれた飲料メーカーのロゴは判別不可能なくらい劣化していて、コンデンサーの作動音は山合いの静かな集落に異音を響かせている。こんな不格好な代物、自然豊かなこの地には似合わないのだから置かなければいいのに、と不意に腹が立った。
そして自販機を見上げたところで、私はますます気が滅入ってしまう。普段なら自販機の飲料なんて100円までしか出さない主義なのだが、さすがに辺鄙な場所だけあって品揃えの悪さと共に値段もお高めの設定なのだ。
しかし先輩という立場上、みみっちいことは口にできない。私は自分用に適当な麦茶を1本買った後「せっかくついてきてくれたし奢ってあげるよ。どれがいい?」と言ってあげた。
「じゃあ、それで」
彼が私の持っていた麦茶を指さすから「おっけー」と気さくに応じ、小銭を入れようとした。
しかし彼は「違いますよ。先輩のがいいんです」と言うや否や、私の持っていたペットボトルを横から浚っていってしまう。
「え?」
驚く私を無視し、彼はペットボトルを傾けて美味しそうに麦茶を飲み始めた。
白い喉仏がお茶を飲み込むのにあわせて、大きく上下に動く。中に別の生き物でも飼っているんじゃないかと疑いたくなる男性特有の突起物を、私はまじまじと見つめた。
「……ご馳走さまです」
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