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プレリュード
冷たく硬い地面を左頬に感じながら数秒間夢を見ていた。
瞼を渾身の意識で見開くと真夜中の夜空が右手にぼんやり見えた。
「お前みたいなもんが何が武道館やねん!」
甲高い特徴的な声が上のほうから降ってきた。
(思い出した....俺は殴られているのかもしれない.....)
松井省吾20歳。17歳の時に高校を中退し大阪に出てきて3年。
地面に倒れこみながら一時的に朦朧とする中、さっきの出来事を回想していた。
「おぅ!省坊!」
「いらっしゃいませ~」
「新作のやつ入っとるけ?」
「予約されてたやつですね?お取り置きしています」
「帰りに一緒に借りるから出しといてくれや!」
「はい。わかりました。」
「おぅ、これと、これと、新作と借りるわ!」
紙袋で口を覆って大声を上げたような特徴的な声が響く。
知り合いのバンド仲間の紹介で個人の営むレンタルCD/ビデオ店で
顔なじみになった西松勝は誰が見てもわかりやすいルックスで
腕っぷしの強さが滲み出る建設作業員だ。
省吾を見ると30歳を超える西松は弟のように思うのか
時折優しく時折横柄な態度で接した。
「省吾!これサービスでええやろ?つけてくれや!」
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