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給料はこれだけ、住む場所は会社で用意するという条件で決定した。
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西宮への出発当日。
父親は予想通りもう朝から家にはいなかった。
居間に行くと父親が封筒に3万円を入れてしたためてあった。
「省吾へ」と薄い鉛筆で書かれていただけであった。
「それ、お父さんからよ」
無言で封筒をジーンズのポケットに押し込むと
美恵子と一緒にバス停までスポーツバックを抱えて家を出た。
美恵子は車の免許を持たない。
原付バイクの免許しかないため、もっぱら移動は自転車か原付バイク。
遠征をする時は距離にして5キロ程度離れた地区に住んでいる
姉の車に乗せてもらうか、バスを利用するか賢治に頼んでいた。
家を出ようとするとささやかな植木が父親の趣味で植えてある庭を囲む
コンクリートブロックを積んだ壁の後ろから赤いキャップが見えた。
見覚えのあるキャップに寄ると英二がもじもじとうつむいて立っていた。
英二とは中学から一緒の学校になり好きなアーティストが同じ事で友人となり
幾度となく悩みや夢を語り合った仲であった。
時に同じ人を好きになったり、気が強い省吾はトラブルも多かったが
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