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キョロキョロと辺りを見回していると身長150㎝程しかない小柄だが
がっちりした初老の男が手を振っていた。
省吾を迎え入れる松崎空調の社長、松崎幸太郎であった。
「おつかれさんでした」
やや細く高い声で一言発すると、美恵子が抱えていた荷物を
黒のスカイラインY31型のトランクに素早く慣れた様子で納めると
「さ、乗って。今日は遅いですから用意した寮まで送りますから。」
省吾と美恵子は後部座席に座ると目的の人に無事に会えた安堵で
背中を丸めて小さくなっていた。
「お母さん、お疲れになったでしょう。神戸は初めてですかね?」
「いえ、若いころは大阪に仕事に出てきてた事があります」
「そうなんかね、そうなんかね、随分大阪も変わった思いますよ」
「何度か出てこさせてもらった事があるんですけど変わりましたねえ」
こうしたやり取りを二人がしている間
省吾は同級生の事、好きだった女の子の事、そしてどうして自分が
皆と同じように学校を卒業せずにこうして就職しようとしているのか
頭の中でああでもないこうでもないと考え巡らしていた
「省吾君は疲れてないかね?」
「あ、はい。大丈夫です」
「まあ若いからなあ ハッハッハ。 今週はゆっくりしてもろて
来週から会社に出てきてもろたらええからね」
「はい...」
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