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「まずはこれから飲むのが筋だろう。ほら、酒器を持て。注いでやる」
キュッという聞き慣れた音を立てて、男が瓶の口を開ける。男から目を逸らさないまま、一番手近にあった利き猪口を手にした。そして、にやつく男の前にそれを差し出す。
男が瓶を傾けると、すぐに器の中には澄んだ液体がなみなみと注がれる。少し揺らしただけで零れそうなほど注がれた酒をそっと口元まで持って行き、そして口をつけてから一気にそれを飲み干した。
口の中で酒の冷たさを味わってからそれを飲み込むと、ぴりっと喉を焼くような熱さが通り過ぎる。それから口を開けると、ほんのり甘い酒の香りが鼻を抜けた。何度も口にした、我が家の酒の味だ。
「ほう、さすがだな。飲み慣れているようだ」
「……当たり前です。自分の家のお酒ですから」
「しかし、最初からそのように飛ばしてもよいのか? すぐに酔いがまわっても知らぬぞ」
「ご心配なく。それより、次はあなたの番です」
口の開いた瓶を手にして、急かすようにそれを差し出す。男はふっと小さく笑ってから、私と同じ大きさの利き猪口を手に取った。
「これは、なかなか面白い勝負になりそうだな」
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