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真っ赤な顔で机に突っ伏して眠っている男を、ちらりと一瞥する。肩辺りまで伸びた銀髪は、染めたにしてはきらきらと美しく輝いている。きっと良いトリートメントを使っているのだろう。男のくせに。
それに、自分は名乗らないくせに私たちの名前を聞き出して、いつの間にか私を「天音」と呼び捨てにしていた。しかも最後の方は甘えるように管を巻いてきたし、酔うと絡んでくるタイプらしい。鬱陶しいことには変わりなかったが、第一印象とのギャップに少し笑ってしまった。酒を飲むと本性が現れると言うが、あっちの方がこの男の本性だと思うとなんだか可愛いかもしれない。
「……もう、変なちょっかい出すのやめてよね」
眠りこけている男に、そっと自分の着ていた羽織をかける。すると少し身じろぎしてから、あまね、と私の名前を呼んだ。一瞬どきっとしたが、きっと夢の中ではまだ飲みくらべをしているのだろう。懲りない男だ。
「さて! 私たちもそろそろ寝ないとね」
「うん、もう眠いー。明日も朝から何かあるんでしょ? 寝坊しちゃうよぉ」
「明日はたしか……どっかの大きい酒造の社長さんの講演会だったっけ」
「うげー、絶対寝るー!」
大きなあくびをしながら、夕月と小春は心底面倒くさそうに不満気な声を漏らした。正直言って私も講演会を真面目に聞くのは面倒だが、ためになる話を聞けるかもしれない。そのためにも早く寝ようと、妹二人とともに部屋に戻ることにした。
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