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東雲酒造の社長さんに連れられてやってきたのは、旅館の離れのような場所だった。私たちが泊まっている本館とは廊下一本で繋がっているだけで、どうやら部屋は一つしか無いようだ。ここに一体何の用事があるのだろう。
「……着いたよ、天音ちゃん。ここから先、私は入ることができないんだ」
「え? ど、どういうことですか?」
「騙していたようで、言いづらいんだが……私はある方の言いつけで、この交流会を開いたに過ぎないんだ。この地域の酒蔵に昔から伝わる言い伝えが、まさか本当だったとは思いもしなくて……」
「あ、ある方? それに言い伝えって……?」
「とにかく、後のことは天音ちゃんに託されているんだ。私にもどうなるかは分からないが、きっと悪いようにはならない。でも一応、これを持っていてくれ!」
そう言って渡されたのは、布製の小さなお守りだった。よく見てみると、そこには「災難厄除」の文字が刺繍されている。災難って、一体どういうことだ。
「な、なんですかこれ!?」
「役に立つかどうかは分からないが、私にできることはこれだけなんだ! すまない、天音ちゃん! 健闘を祈る!」
「健闘って!? ちょ、ちょっと社長さんっ!」
何やら不穏な言葉を残して、社長さんは全速力で廊下を走り抜けて行ってしまう。ぽつんとその場に残された私は、その後ろ姿をただ茫然と眺めることしかできなかった。
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