569人が本棚に入れています
本棚に追加
一体、何が起こっているのだろう。
社長さんに無理やり持たされたお守りを手に首を傾げたそのとき、背後の部屋からゴトンと物音がした。
びくついて、恐る恐る後ろを振り返る。そして、私はもう一度体を竦ませた。
さっきまで閉じていたはずの部屋の襖が、私を招き入れるように自然と開いていたからだ。誰もいないのに、ひとりでに。
「……き、きっと、自動ドアなんだわ。うん。最近の旅館はハイテクね……」
恐怖をごまかすように独り言を言ってみたが、何の意味も為さなかった。開いた襖の先は、まだ朝だというのに真っ暗な闇に覆われていて何も見えない。それなのに、この中に入らなければならないのだと、私の本能が知らせている。
入りたくない。怖い。逃げたい。
しかし、そんな私の意思とは裏腹に、少しずつその闇に向かって足が動く。まるで何かに操られているかのように、足だけが私の支配下に無かった。
そしてとうとう、右足がその闇に一歩を踏み出す。その瞬間、まるで電気が点いたように部屋の中がぱっと明るく目の前に映し出された。
「なっ、なに……!?」
その眩しさに耐えきれず、思わず手で目を覆う。そして少しずつその手を退けていくと、そこは二十畳はありそうな広い和室だった。
ただの旅館の一室なのだとほっとしたのも束の間、その和室の中央に座る人物に気付いて、私は目を見開いた。
「よく来たな、天音。待ちわびたぞ」
広い和室の中央に堂々と座っていたのは、つい昨日私が酔い潰した銀髪の男だった。
最初のコメントを投稿しよう!