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男の姿に気付いた途端、自然と体の震えは止まった。しかし、状況は未だまったく理解できていない。
男は昨夜と同じ漆黒の浴衣に白い帯、それに私がこの男にかけてやった羽織を肩にかけている。平然としている様子を見ると、どうやら二日酔いで苦しんではいないようだ。
「昨夜は世話になったな。よもやこの俺が人間の女に酒戦で負けるとはな……世も末よ」
「なっ、なんであんたがここにいるのよ!? どういうこと!? まさか本当に、この交流会の主催者って……!」
「だから言っただろう、俺が主催者だと。信じていなかったのか?」
「信じられるわけないでしょ!? あんたみたいなチャラついた奴、その辺の不良だとしか思えないわよ!」
「ははっ、不審者の次は不良か。力が落ちたとはいえ、俺はお前たちにとって敬うべき存在であるはずだがな」
「はあ……!?」
さっぱり訳が分からない。一体この不良を、どういう理由で敬えばいいと言うのだろう。
そんな私の疑問を見透かしたように、男は薄く笑ってからもう一度口を開いた。
「まあ、立ち話もなんだ。説明をしてやるから、ここに座るといい」
「ここ、って……なんで布団?」
「それも説明してやる。早く座れ」
よく見ると、男が座り込んでいるのは和室の中央に敷かれた布団の上だった。一人用よりも少し大きめで、枕元には古びた行燈のようなものまで置いてある。まるで時代劇の中に入ったようだ。
これで会うのは二度目だが、仮にも昨夜共に酒を飲んだ間柄だ。良い印象こそないものの、昨日ほど警戒心はない。きっとべろんべろんに酔っ払った姿を見ているせいだろう。
促されるまま、私は男と向かい合うような形で布団の上に座った。
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