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「まだ理解できぬか? 俺は頭の回らぬ女は好かんぞ、天音」
「いや、あなたに好かれなくとも構わないんですが……え? あの、うわばみって、大蛇のことなんですよね?」
「そうだ。もっとも、今の俺は本来うわばみにあるべき力のうち、その四分の一も発揮できぬ。人間よりも少々長命で、少々力があるのみよ」
「へ……へえー。おもしろーい……」
「何が面白い。お前、酒蔵の娘だろう。この地域の酒蔵にとっては、うわばみは敬うべき酒の神だぞ」
嘘だ。そんな話、聞いたことがない。
うちにあるのはごく普通の神棚で、お正月にはお餅とみかんを飾って、あとはその年に出来上がったお酒を納めている。ただそれだけだ。
──あれ。そういえば、毎年神社でもらう札に、なんだかうねうねした生き物の絵が描いてあったような気がする。あのうねうねしている生き物って、まさか。
「あ……あれ、蛇だったんだぁ……」
「……うわばみに対する信仰心が薄れているとは知っていたが、ここまでとはな。道理で俺の力も弱まるはずだ」
「え、あの……とりあえず、あなたはうわばみ様ってことにしておきます。仮に、ですけどね? それであの、そのうわばみ様が、私に何の用で……?」
「決まっているだろう。お前を俺の嫁にする」
まっすぐ、真面目な顔で私を見つめて、この人はなんて笑えない冗談を言うのだろう。
まさに開いた口が塞がらない状態の私にふっと笑って、男は慣れた手つきで私の顎を指で掬った。やっぱり、予想通りチャラい。こんな人が神様なわけがない。
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