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「嬉しくて声も出ぬか? ふふっ、愛いな」
「……ウイ?」
「今の人間の言葉でないと分からぬのか。かわいい、愛おしい、という意味だ」
かわいい? いとおしい?
どうしてこの人が、そんな甘ったるい言葉を吐くのだろう。しかも、こんなに優しい瞳をしながら。
不自然で異様だと思っていた金色の瞳が、私のすぐ間近に迫ってくる。よくよく見てみれば、カラコンなんかじゃなくて地の瞳の色だ。作り物ではない、本物の金色がなんだか眩しくて、私は思わず目をつぶった。
しかし男は何を勘違いしたのか、目をつぶった私の唇に自分のそれを無遠慮に押し付けて、まるで恋人同士がするようなキスをした。
「んっ……!? んぅ、んんぅ──っ!!」
必死で暴れたけれど、いつの間にか両手を抑えられている。頭を振って避けようにも、もう片方の手で顎を抑えられていて動けない。
違う、そうじゃない、と反論しようと開いた口に、男の濡れた舌が入りこんでくるのが分かった。もしかしなくても、ディープキスというやつだ。
でも、なんだか様子がおかしい。こんな深いキスをするのは生まれて初めてだが、明らかに何かが違う。私の舌に絡まる男のそれは、舌と呼ぶにはどうにも長すぎるのだ。
「ん、ふぅっ、んんんっ! っは、なにぃっ……!?」
「……なんだ。口づけの最中に考え事とは、色気のない女だな」
「いや、だって! 違う! なに、あんた今何したのっ……!?」
「何だと? ……ああ、そうか。俺がうわばみであるという証拠は、これであったな」
合点がいったように、男はにやりと笑う。そしてその口から、先ほどまで私の口内に入り込んでいた舌を見せつけるように突き出した。
どう見ても人間のものではありえないほど長い、先端の割れた異様な舌を。
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