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「随分としおらしくなってしまったな? 天音よ。そんなお前も良いが、昨夜のような勝ち気な態度はどこへ行った。酒の神を酔い潰した、うわばみ様よ」
馬鹿にされている。そう思うのに、私を見つめる男の金の目が優しいせいで、私はほとんど怒りを感じられなかった。あるのはただ、自分とは違う異形の物に対する恐怖のみだ。
もう私の返事を期待していないのか、男は枕元に置かれていた箱の中からタオルのようなものを取り出して、私の汚れた股間を甲斐甲斐しく拭いた。どう考えても屈辱的なことなのに、それをされても私はまだ動けない。まるで金縛りにあったようだ。
「……動けぬ者に触れてもつまらん。耳は聞こえているようだから、今のうちに説明をしてやろう」
私の股間を拭ったタオルも適当に放ると、男は胡坐をかいてその膝の上に私を座らせた。上半身だけ服を着ているという無様な格好だが、男は気にするそぶりもなくぽつぽつと語り始める。
「先ほど言ったように、俺は酒の神であるうわばみだ。いや、正確にはうわばみの子孫──とでも言ったほうがよいか」
膝の上に座らせた私の髪を撫でながら、男は語る。
声も出ないまま、私は昔話のようなその話に聞き入った。
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