569人が本棚に入れています
本棚に追加
私たち三姉妹の生まれた春日家は、春日酒造という小さな酒蔵を経営している。八代目当主であり現社長の父と、副社長である母、それに十数名の従業員で切り盛りする春日酒造は、歴史こそあるものの今では経営難に陥っている。冬の仕込み時期には数人の蔵人に来てもらうけれど、その数も年々減ってきているのが現状だ。
そんな苦しい家計を考慮して、私たち姉妹は三人とも高校卒業と同時に実家の酒蔵で働き始めた。酒造りには専門の職人がいるので、販売店での接客や事務処理が私たちの主な仕事だ。それでもやっぱり経営が厳しいことには変わりなく、食べるのに困るほどではないけれど、日々つつましい生活を送っている。
「お泊まりなんて修学旅行ぶりだから、どきどきしちゃう! ねえ、夕月ちゃん」
「ほんとだよねぇ。最後に家族で旅行したのも、もう何年も前だし」
「あたし、その家族旅行全然覚えてない。また行きたいなぁ」
一口サイズのチョコレートを頬張りながら、二人は楽しそうにおしゃべりに興じている。
次女の夕月は今年成人式を迎え二十歳になったばかりで、三女の小春は高校を卒業したばかりの十八歳だ。そして長女である私、天音は今年二十三歳になる。
ゆくゆくは酒蔵を継ぐためにお婿さんを迎えなければならないのだが、今のところその兆はない。毎日仕事で忙しく、彼氏を作っている暇なんて無いのだ。
それに正直言って、妹二人の方が美人だし結婚に向いていると思う。まあ、私たち三人のうち誰かの旦那さんになる人がお婿に入ってくれればそれでいいので、私も特に焦ってはいない。
最初のコメントを投稿しよう!