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「……あんた、やっぱり変だよ。昨夜たった一回飲み交わしただけで、どうして私にそこまでしてくれるの?」
「…………」
「蛇って、人を唆す生き物なんじゃないの? それとも、うわばみと蛇はまったく別物ってこと?」
「……どうした、天音。頭でも打ったか」
「打ってない! もう、細かいこと気にしなくていいから! だから早くあんたの名前教えて!」
捲し立てるようにそう叫ぶと、男はまた驚いたように目を見開いた。恐ろしい化け物だと思っていたけれど、この男はこんなにも人間らしい表情をする。そして人間と同じように、いや、もしかしたらそれ以上に、慈悲深い化け物だった。
少しの間、沈黙が流れる。男は私の瞳をじっと見つめ、そして深く息を吸ってから絞り出すように声を発した。
「──凪。それが俺の名だ」
なぎ。
男の声に続いて、小さく声に出してみる。
初めて呼ぶはずなのに、不思議なくらい馴染みのある響きだった。
「……凪。私を、お嫁さんにもらってくれる?」
「ああ。お前しかいない。この俺を酔い潰した、うわばみ様よ」
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