1.酒戦

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「まあ、細かいことはいいじゃん! 温泉にも入れたし、おいしいご飯も食べれるし、タダで旅行できるようなもんなんだから!」 「そうだね! 一人じゃ嫌だったけど、お姉ちゃんたちがいるからいいや」 「これで他の酒蔵の男の子がいたら、もっと楽しかったのになぁ。東雲酒造さんに言ってみようか、今度は男の子も参加する婚活パーティーがいいですって!」 「もう、夕月! あんまり恥ずかしいことしないでよ」 「分かってるよぉ」  きゃっきゃと騒ぐ妹たちを窘めながら、本心では私もこの交流会を楽しみにしていた。普段は仕事ばかりで遊ぶ暇もないし、そもそも遊べるお金も無いのだ。  今回の交流会は二泊三日で行うが、普段であれば三日連続で休みなど取れない。もしかしたら、そんな娘たちに息抜きをさせようと両親がこの交流会に参加するのを勧めてくれたのかもしれない。そう思ったら、あまり深く考えずにこの交流会を楽しもうと思えた。 「楽しそうだな、娘さんがた」  ふと背後から聞こえた声に驚いて、三人揃って振り向く。そこにはいつの間に近づいてきたのか、銀鼠色の不思議な髪をした男が薄ら笑いを浮かべながら佇んでいた。 「ど……どちら様ですか?」  不信感を隠さずに尋ねる。妹二人を背に庇うように移動しながら、話しかけてきたその男を鋭い眼光で見つめた。  今日この旅館には、酒蔵の娘しか集められていないはずである。つまり、貸切だ。  しかもこの階は大広間や風呂があるわけでもなく、あるのは娘たちの泊まる部屋だけだ。男性が立ち入る理由などない。
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