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3.蟒蛇
「ねー、凪。来週は実家に帰ってもいい?」
「……またか。そのように頻繁に帰って何になる? お前が手伝わねばならぬほど人手が足りておらぬのか」
「そういうわけじゃないけど……だって、寂しいじゃない。たまには家族の顔が見たくなるの」
「ほう。常に俺が傍にいてやっているというのに、それでも寂しいのか? 奥方殿」
洗濯物を畳みながら話しかけた私に、凪の腕がまとわりついてくる。今日は私が見繕った深い藍色の着物を着ていて、彼の銀髪とよく似合っている。そう思ってしまうのも、彼にすっかり惚れてしまったせいかもしれないけれど。
「それで、許可は下りるのかしら? 旦那様」
「む……しかし、また一週間は実家にいるのだろう? その間の子作りはどうする」
「なっ……! い、一週間くらい休ませてよ! 大体ねえ、あれすっごい体力使うんだから! 一回何時間かかると思ってんの!?」
「仕方ないだろう、そういう習性だからな」
「習性とか言うなっ! 獣じゃないんだから、理性でなんとかしてよ!」
「ふっ、それは無理だな」
あっさりと私の言葉を却下したかと思うと、凪はその長い舌をべろりと出して私の首筋に這わせた。この異様な舌にもすっかり慣れ、最初の時のように漏らすようなことは無いけれど、これでひどい目に遭わされたことは一度や二度では済まない。特に、こうやって甘えるように舐めてくるときは要注意だ。
「んっ……ちょ、ちょっと、こんな時に発情しないで」
「ほう? 今宵お前を好きにさせてくれたなら、実家に帰るのも許そうかと思っていたが……そういうことならば、帰すわけにはいかぬな」
「はあっ!? い、意地悪!」
「何が意地悪だ。大体、嫁いできたくせにしょっちゅう実家に帰るとは何事だ」
「だって、何だか心配で……」
「何を心配することがある。春日酒造もあれだけ大きな酒蔵になったのだ、お前が気に病むことはあるまい」
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