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慎吾郎は剣の天才ではあったが、驕り高ぶるようなことはなく、むしろ務めて真面目で、素直で、人の言うことをよく聞く子供であった。教わったことはどんなことであれ無駄にせず、幾度も繰り返し反芻し、自分のものとした。よく習い、よく学び、よく覚える、これ以上ない生徒だと、彼に物を教えたすべての人間が語った。
彼はとりわけ剣に夢中ではあったが、もしもその他の分野に手を伸ばしていれば、そちらで名を残していたことは、誰にも疑うところのない事実であった。
そんな慎吾郎の人生の歯車が狂ったのは、あるいは動き始めたのは、彼が十二の時である。
慎吾郎の父、秀則には、奇妙な習慣があった。
月に一度か二度、家人が寝静まった夜遅くに、酒を片手に山を登るのだ。
普段は真面目で、頑固で、融通の利かない頭の持ち主である秀則が酒を手にするのは、その山に向かうときだけだったから、わけこそ聞かないにしろ、周囲のものは様々な憶測を口にしていた。
その中には、むろん、慎吾郎の姿もあった。自らの父のことである。真実を知りたいと思うことに、何の不思議があろうものだろう。人の子として、当たり前のことである。
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