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そして、十二の夏。慎吾郎は、山に向かう父の後を、静かにつけていった。
山で父が何をしていようと、見る目を変えるつもりはなかった。妾と会っていようが、自らの知らぬ兄弟と会っていようが、それこそ、怪しげな呪術に手を出していようとも、だ。
秀則はそんな慎吾郎の心は知らず、提灯の心もとない光とともに、山道をすいすいと進んでいく。離されないように、かつ、気づかれないようにその背を追う慎吾郎の額に、玉のような汗が浮かび上がる。このような道を軽々と進む父の姿に、慎吾郎は尊敬すら抱くほどだった。
やがて、慎吾郎の視界が、ぱっと開けた。先ほどまで碌に差し込まなかった月明かりが、降り注ぐ。それを遮っていた木々は、この場所を避けるかのように、円形になっている。空を仰げば、中天には、真ん丸の月が浮かんでいる。なにやら神聖な場所の世に思えて、慎吾郎の心身が、引き締まる。
同時に、慎吾郎は少しだけ、安堵する。
父の目的が何であれど、それが邪悪なことではないことが、わかったからだ。このような場所で邪悪な儀式を行うほど、父は魔道に堕ちてはいまい。考えてみればいささか馬鹿げた妄想であったと、胸をなでおろす。
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