境地の剣

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視線を再び秀則に移す。ここまで連れ添った提灯も、酒も、いつの間にか、その手には握られていなかった。代わりに、慎吾郎も見覚えのあるものが握られている。 木刀だった。随分と年季が入っているのだろうか、握りはぼろぼろだったが、刀身は真剣もかくやというほどに美しかった。道場にあったものではない。おそらくは、この場所にもとよりあったものなのだろうと、慎吾郎は思う。 秀則はその木刀を幾度か振るう。美しい所作だ。慎吾郎の目指すべき、剣の頂だ。生まれてこの方、父よりも奇麗に剣を構え、振るう存在を、慎吾郎は知らなかった。
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