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境地の剣
田島慎吾郎は、幼少期より剣の天才と呼ばれ、自身もまたそうであると確信していた。
十歳になるころには、剣の腕で彼の上をいくものは数人ばかりしかおらず、そのうちの一人である父にして師、田島秀則をして、数年の後には自らを超えるであろうとたたえるほどであった。
秀則の開く道場には、慎吾郎と同年代のものはもちろん、五十を過ぎ去った老人から、六つになったばかりの幼子まで様々な門下生がいたが、その誰もが、慎吾郎の強さの秘密を知りたがっていた。中には、父である秀則が、我が子にだけ剣の極意を伝えているのだと囁くものさえいた。
無論だが、そうだったとしても後ろ指をさされるようなことではないのだが、秀則はその様な噂を聞くたびに、逐一否定して回った。むしろ、その様な極意があるのであれば、自らが教えてほしいくらいだとつけることを、決して忘れなかった。
それでも納得のできない幾人かが辛抱強く質問を重ねた際に、一度だけ、秀則が憶測を口にしたことがある。
曰く、慎吾郎は、眼が違う。
作りが違うわけでも、人より大きいとか、小さいとかでもない。
見ているものが違うのだ、と。
その後、その言葉を聞いたうちの一人が、秀則に道場をやめることを告げた。
自分はあれにはなれない。その言葉だけを残し道場を去る少年の背中を見て、秀則は同意するように、ゆっくりと頷いた。
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