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「 何故、君が泣くの?」
「 実吉が、泣かないから、私が代わりに泣くの 」
そう、実吉は涙を流していなかった。
悲しいはずなのに、あの時に流れた涙が、今は流れていない。
麻痺していたのだ。
あれから一月。悪夢にうなされても、涙が流れることはなくなった。泣けていた当初の頃の方が楽な程に、今は泣けなくなっていた。
梅は兄から聞いていた話を思い出す。
城に預けられたという、目の前で家族を失い、心を閉ざしてしまった少年の話を。
そして、「 貴方のことだったのね、実吉 」
と呟き、先程から見え隠れする傷を労わるかのように、実吉の袖をまくった。
「こんなに自分を痛めつけるほどに、苦しんでいたのに、もっと早くに気付いてあげられなくて、見つけてあげられなくて、ごめんなさい 」
と、毎晩爪を立て傷ついた腕を包み込み、声をあげて泣いた。
そんな少女の姿に、実吉の頬を一筋の雫が伝う。
そして、実吉も声をあげて泣いた。
木々の間から差し込む光が2人を包み込んだ。
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