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君の花
梅と実吉はそれはもう仲睦まじくなっていった。
母はそれを愛しそうに見つめ、父は安心したように目を細め、兄の松正(むつまさ)は体が弱く、妹と遊んであげることの出来ない自分に変わり、実吉が遊び相手になってくれていることに喜んだ。
時は過ぎ、16歳の春のこと。
庭に出て桜を見る梅に気づいた実吉は、まだ肌寒い中薄着でいる梅に溜息をこぼし、そっと羽織を肩にかける。
「 姫様、桜が好きなのですか?」
その声に笑みをこぼし、自分より背丈の高くなったその声にそっと振り返る。
「 ええ、桜は好きよ。綺麗で強くて、誰をも魅了するのだから。私の名前は梅でしょう?梅はあんまりだわ。あっという間なんですもの。咲いてもすぐに、人の目を桜に取られてしまうのだから 」
頬を膨らまして「さあ中に入ろう」と言う愛しい太陽に、「姫様、私は梅の花が好きです」と月は微笑む。
「何故?」
「 桜よりも早くに春の訪れを知らせてくれてくれるのは梅の花です。なによりも、姫様と同じ名前の花だから。ああ、姫様だって嬉しくなるんです 」
「 そんなこと言ってくれるのは実吉だけね、きっと 」
「 みんな思ってますよ 」
ほととぎすの鳴き声が空を鳴らし、その後を二人の笑い声が追いかけた。
「 ありがとう、実吉 」
きっと二人はこの頃から、惹かれ始めていたのだろう。
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