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「実吉からの、申し出があった。剣術を学びたいと」
「実吉が?」
「あゝ、強くなりたいと私に頭を下げたよ」
実吉が城に入り6年。当時は手もつけられぬ程に弱り切り、我を忘れて剣術の稽古を朝から晩までしていたのを兼正が止めて以来、刀を持つことなどして来なかった。
「あの頃の実吉は実に心が弱かった。本当の強さの意味を知るまで剣術に励むのは危険だと、そう判断して彼から刀を取り上げた。しかし、昨日の実吉はあの頃とは違う、強い意志があった。自分の大切なものたちを"守る"ために強くなりたいと願う彼の想いに、答えてあげたい」
苦渋を飲むように、だがどこか嬉しそうに話す父に「あゝ、」と松正は何かを察し、昼間に妹の届けてくれた桜の枝を見つめてゆっくりと言葉を紡いだ。
「そういえば、実吉が何かを頼んできたのは初めてでしたね」
「 あゝ 」
それが例え修羅の道になろうとも、"今"を生きようとする彼の生き方を守りたいと、二人は思ったのであった。
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