27人が本棚に入れています
本棚に追加
/61ページ
梅はその夜、なかなか眠ることが出来ずに居た。
いつもなら月明かりが薄く照らす部屋も、雲がかかり薄暗く、梅は光を求めるようにそっと蝋燭に火を灯した。
そして少し古びた小振りの木箱を一撫でし、中から赤色の下緒(さげお)を取り出す。それを両の手で包み込み、大切そうに胸元に引き寄せる。
「竹正(たけまさ)兄様、、、」
いつもの天真爛漫な梅からは想像もつかない程、消え入りそうなほど苦しそうに誰かを呼ぶ声は、静かに部屋の中を彷徨った。
「 梅は、竹正兄様に会いとうございます 」
梅の頬を一筋の涙が弧を描くように流れ落ちる。
そして感情に呼応するように、下緒を握りしめる手にも力が入り、背を丸め声を殺して泣いた。
そんな梅の姿を、雲が抜けいつもの光を取り戻した月だけが知っているのでした。
最初のコメントを投稿しよう!