君の花

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梅はその夜、なかなか眠ることが出来ずに居た。 いつもなら月明かりが薄く照らす部屋も、雲がかかり薄暗く、梅は光を求めるようにそっと蝋燭に火を灯した。 そして少し古びた小振りの木箱を一撫でし、中から赤色の下緒(さげお)を取り出す。それを両の手で包み込み、大切そうに胸元に引き寄せる。 「竹正(たけまさ)兄様、、、」 いつもの天真爛漫な梅からは想像もつかない程、消え入りそうなほど苦しそうに誰かを呼ぶ声は、静かに部屋の中を彷徨った。 「 梅は、竹正兄様に会いとうございます 」 梅の頬を一筋の涙が弧を描くように流れ落ちる。 そして感情に呼応するように、下緒を握りしめる手にも力が入り、背を丸め声を殺して泣いた。 そんな梅の姿を、雲が抜けいつもの光を取り戻した月だけが知っているのでした。
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