君の花

5/5
27人が本棚に入れています
本棚に追加
/61ページ
朝日が昇り始めた頃、庭では風を切る音がしていた。 「 実吉。こんなに朝早くから稽古か? 」 音の正体である実吉は刀を振るのをやめ、頬を汗が流れ落ちるのを感じながら声のした方に体を向けた。 「 はい。一刻も早く強くなりたいので 」 朝日に照らされると、どれ位刀を振っていたのだろうか。肌に袴が張り付くほどの汗が滴り、風呂上がりのように汗が髪を濡らしている。肩で息をする実吉は、放っておけば一日中稽古をし続けるだろう。 「 稽古のしすぎは体を壊すぞ。少し休憩をしてはどうだ? 風呂に入って来るといい 」 実吉は握っていた刀を離すと、手にできたマメが潰れており「 痛、」と眉をしかめたが、声の主に一礼をして風呂場へと向かった。 声の主松正はやれやれと言った表情を浮かべ空を見上げ、 「 初日から手があんなになるまで稽古をするなんてな。全く、似てるよ 」 と誰かを懐かしむ様に呟いた。 そして瞼を一度伏せて微笑むと、まだ寝ている者を起こさない様にと静かな足取りで何処かへ向かうのであった。
/61ページ

最初のコメントを投稿しよう!