松正

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痛みに沁みる手のひらに布を巻き、再び稽古を続ける為庭に戻った実吉は目を見開く。 「 早かったな、せめて朝餉が終わってからにしないか? 」 同じく袴に身を包んだ松正の姿があったからだ。 手には木刀を持ち髪も高く結っている。 「 松正様、お体は宜しいのですか?」 日頃外に出ることも少なく自室で休んでいることの多い松正。どこが悪いのかを知る人は少なく、不治の病なのでは、と新しく城に使え始めた者の間で噂されることもあった。実吉は梅に連れられ昔から松正の部屋にも出入りすることが多く、自分のことを実の弟のように可愛がってくれる松正の人柄を知り、尊敬の念を示していた。その為根も葉もない噂を立てる人が許せなかった。 だが、到底刀を持てる人には見えないのも確かだ。 「 心配してくれているのだな。有り難う、実吉。しかし、私もこうなる前は武力には高けていたんだよ 」 そう言い松正は木刀を実吉に投げる。実吉はそれを手に取り真っ直ぐに松正を見た。 「 今日から私が君に剣術を叩き込む 」 見たことのない凛とした顔をした松正に、実吉は迷うことなく答える。 「 はい。よろしくお願いします 」 今日の朝はいつもより少し暖かかった。
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