昔々

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2人の出会いは10歳の時。 梅の父が、戦争で孤児になった実吉を引き取った。 実吉の家は毛利の名を持つ武士の家系で、一つの隊を率いる実吉の父である吉宗の家族を盾に取ろう、と考えた敵部隊による家への襲撃が原因であった。 敵の狙いを知った吉宗が急いで駆けつけた時には既に遅く、抵抗して殺された妻と子どもたちが転がっていた。怒りに狂いその場にいた敵兵に一人で立ち向かった吉宗も、無残に散ったのであった。 駆けつけた吉宗の小隊が、まだかすかに息をしている実吉を手当てし、実吉の家族を弔った後に戦争に加担しない国で知られていた国の城主である吉田家に引き取ってもらったのだ。 刀傷とは酷いもので、切られたところがひどく化膿し、 三日三晩熱と痛みに苦しみ続けた。 そして四日後、やっと実吉は目を覚ました。 目を覚ました実吉は、叫んだ。 叫んで、叫んで、泣いた。 そんな実吉を、梅の母お雪(おゆき)は抱きしめた。 何も言わずに、ただ、抱きしめ続けた。 それから数日経ったが、家族を失って日も浅く、それはそれは見るも無残な程に心も身体も弱りきっていった。     
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