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実吉は毎晩悪夢を見た。殺された父、母、妹。
自分だけが生き残ってしまった。
「ごめんなさい。僕だけ、ごめんなさい 」
涙は枯れることなく込み上げてくる。
そして夜になると、嫌な程に一人を実感させられる。
毎晩日が暮れると布団の中で懺悔を繰り返し、家族を失った失望感に責め立てられ、痛みで誤魔化すように両腕に爪を立てた。血が出てもなお、爪を立て続けた。
その内実吉は、朝から晩まで刀の稽古をするようになった。
父から教わった刀を、一人一心不乱に握りしめた。
そんな実吉を、梅の父である兼正(かねまさ)は止めた。
「 君は今、何のためにそれを振っているのかね? 」
「 強くなりたい!強く、強くなりたい!」
「 今の君では、強さを履き違えてしまう。本当の強さを知ることができるまで、それは預からせてもらうよ 」
実吉には、兼正の言っていることの意味が分からなかった。
ただ、その場に崩れ、一筋の涙のみが頬を伝う。
そしてまた、思い出すのは家族のこと。
逃げ切れない後悔と絶望と苦しみの日々の中、
月は太陽と出会う。
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